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友人Lがガイドブックをぱらぱらとめくって指を止めたのが、郡上八幡のページでした。行くあてもなかったのでそこでもいいじゃないかということになり、翌日私たちは、ガイドブックに載っていた写真と同じ風景の中に立っていました。長屋のように軒を並べた昔ながらの家々、車のいない道、道と家の間の水路。一またぎできるほどの小さな水路には、これまた小さな橋がいくつもかかっています。家の玄関に続く橋なのですが、家によって形が微妙に違うのが面白いところ。水路を流れる水も、橋を見上げてころりころりとご機嫌な笑い声をたてます。 | |
この水は一体どこに流れて行くのだろう。そう思って跡をつけると、郡上八幡の町をどうどう巡りする羽目になりました。何しろいたる所に水路が張り巡らされていて、そのどれもが同じくらい澄みきった水をたたえているのです。広めの水路には、散歩におあつらえ向きの小道もついています。きれいな石やタイルが敷きつめられた道もいいのですが、コンクリートの割れ目から雑草がのぞいているような道からも、土地の雰囲気がほのかに伝わってきます。そして歩いている間中、水の笑い声がころりころりと耳の裏をくすぐるのでした。民宿のおばさんに夕食を注文しておいたので、夜は早めに食堂に戻ったのですが、障子の向こうではまだ水が笑っています。もう一度散歩に出かけたくなって、時々箸が止まりました。 | |
さて、郡上八幡を去る前に、Lはあるものを手に入れなければなりませんでした。それは吉田川の近くの建物の中にあったのですが、建物のドアは厳重に閉ざされています。Lは無言で建物の向かいにある喫茶店に入り、窓際に陣取ってコーヒーを注文しました。それから彼女はタバコに火をつけ、ブラインドをわずかに押し下げて建物を見張り始めたものです。 (2000年2月) |
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追記:郡上八幡で催される郡上踊りは、なんと一ヶ月も続くそうです。興味津々です。 |