みんなで持ち寄り旅のスケッチ

リンドス:アクロポリスからの眺め

カリプソ

「ベニスに行くのに陸路を使うのは、宮殿に入るのにわざわざ裏口を選ぶようなものだ」とトーマス・マンは言いました。宮殿の最も美しい姿を、つまり正面を見たければ、船に乗って大海を渡ってこなければならない。ロードス 島の人々なら、こうつけ足すでしょう。
「リンドスと同じようにね」

そういうわけで、私はロードス市のマンドラキ港に足を運び、リンドス行きの船に乗りました。船は港を出て大きく右に旋回すると、広い海原をひたすら南下していきます。エーゲ海の色は、デュフィが描くような透明で音楽的な青かと想像していましたが、実際には純粋で硬質な、比類なき紺碧でした。
空がかすんで見えたほどです。

船がリンドスの港に入ると、小高い丘が視界に飛び込んできました。頂上 に冠のように戴かれた中世の城壁、中腹に広がる白い家並み。ふもとの坂道を、ロバがゆっくりと登っていきます。「うむうむ、美しい」と口の中でつぶやいて、私は甲板のベンチから腰を上げました。

丘の頂上にはアクロポリスの跡があるというので、船を降りて早速坂道に向かいました。頂上までは、約二十分。靴のかかとで小さな砂埃を舞い上げ、昼の陽気にまどろみかけた白い家々の間を通り抜けて歩いていくうちに、背中がじっとりと汗ばんできます。ようやく城壁が見えた時、私は 安堵の息をつき、同時にはっとして左の岩壁をかえりみました。

岩肌に走る、黒く太い線。最初はただの裂け目だと思ったのですが、よく見るとそれは、紀元前に彫られた巨大なガレー船のレリーフだったのです。私はレリーフの前で立ち止まり、歩き始めてから見たものすべてを思い浮かべ、自分が正に最高のアプローチをしたことを悟りました。
   
頂上のアクロポリス跡からの展望は、素晴らしかったです。エーゲ海の紺碧が、空と交わる一線だけ燐光を帯びた水色になって輝いていました。ひやりとした大理石の床を踏みしめて、あのような色の海を眺めていたら、なるほど頭の中に哲学も生まれてくることでしょう。
   
もう一度リンドスを訪れる機会があれば、ぜひ夜明け前に行きたいと思っています。船でエーゲ海を旅したことのある方はお分かりでしょう。エーゲ海に 曙光が差し込む直前、島々はいっせいに紫水晶色に染まります。あの美しい色に染まったリンドスを、この目で見てみたいのです。(2000年8月)

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追記:ロードス島のスケッチのBGMは、「ΘΑΛΑΣΣΑClub 2000」でした。ロードス島のCD屋のおじいちゃん、ありがとう。いい曲ばかりです。