内蒙古草原


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内蒙古草原


1. 忘れな草

 街中に花が満ち溢れてる。
 十分に手入れされ咲き誇る花もいいが、荒野にへばりつくように咲く野草にも、ひとしお心ひかれる。
 庭の食べたくなるほど柔らかな忘れな草を見るにつけ、思い出すのは、内蒙古草原の忘れな草だ。

 忘れな草(myosotis scorpioides L.)は 英語(forget-me-not)でも、中国語(勿忘草)でも ドイツ語(vergissmeinnicht)でも同じ意味だ。

 若者が崖淵に咲いている青い花を、恋人に摘んであげようとして、川に滑り落ちてしまう。花だけは乙女に投げて、「僕を忘れないで」と言い残し、激流に飲まれてしまった。

花の写真
Copyright1998 Keiko Andou
というドイツの民話を子供の頃に読んで以来、小さな青い花が沢山つく忘れな草が好きになった。

 思いがけず忘れな草の大群落に出会ったのは、7月に中国の内蒙古草原を旅した時の事。
 北京から飛行機で1時間半で内蒙古自治区の首都フフホト(呼和浩特)につく。
 さらに1時間半、草原の中心シリンホート(錫林浩特)に飛び、そこから、ジープで3時間程奥深く入り込んだ草原(海抜1400m)のパオ(包)に泊まった。

 草々と風になびく草原を想像していたが、見渡す限り身の丈4ー5cmの原生花園だった。
 世界中の高山植物の種を天から蒔いたようだ。
 1000種以上の野草のうち500種は重要な漢方の薬草だそうだ。
 晴天白雲下、果てしなく続く緩やかな丘陵で、羊、馬は草を食み、鳥が競って啼いていた。

競馬の写真
Copyright1998 Setsuko Watanabe
 部落中でハダと馬乳酒で歓迎。相撲と競馬も草原で繰り広げてくれた。
 ジンギスカン(成吉思汗Genghis Khan)の末裔、蒙古人は、客を実に大事にする。

   パオ(包)の回りは、一面忘れな草の花園だ。
 消え入りそうな風情だが、触ると、針金みたいに固い。極寒、極乾、強風から身を守るためだ。
 花は、サファイアのように深く澄んだ青で、ホタル草程の大きさ。草原の星の光を凝縮するとこんな色になるだろうか。
 大気が清浄な北国の花は、青系が鮮烈に美しい。

 メイドさんに聞いたら、 蒙古語では、花はどれもツエツエク。年に一度ほんの一ケ月も咲かない花々に個々の名前はないが、可憐で美しい花は女性の名として人気だ。彼女もナランツエツエク(太陽の花)さんだ。

Copyright1998 Setsuko Watanabe


〜続く〜
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