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八方尾根の麓にあるゴンドラ乗り場の前で、私と友人Lは思わず顔を見合わせました。 料金表に、往復券は2600円と書いてあります。 「……高いね」 しかし、券を買わなければ山の高みにたどり着けません。私たちは、紅葉が見頃を迎えているに違いないそこへ、早く行きたくてたまりませんでした。 |
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八方尾根のいいところは、紅葉と白馬の山並みを両方楽しめる点です。ゴンドラとリフトを乗り継いで第一ケルンまで行けば、そこはもう紅葉の只中。濃い緑の絨毯の上に気まぐれにばらまかれた毛糸玉のように、赤や黄色の木々が点在しています。すっかりうれしくなって登山道に飛び出すと、なんと右手に白馬三山が見えるではありませんか。鋭い輪郭をくっきりと空に刻んだ山々が、遮るもの一つない姿でそそり立っています。 「わぁお!」 「おおおーっ」 興奮したLと私は、山に向かって口々に叫びました。まるで狼の遠吠えでした。 |
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狼化した私たちは、岩だらけの道をせっせと登っていきました。途中、おにぎりの包みをほどく時だけ人間に戻りましたが、食事を終えると再び狼化。息も荒く上を目指します。八方池を過ぎたあたりから、道は木々の間にもぐり込んでいき、遠目に見ていた紅葉に手で触れられるようになります。真っ赤なナナカマドの葉にしばらく見とれて、視線を転ずれば行く手にも赤のグラデーションが広がっているという具合で 、私たちはまた遠吠えせずにはいられませんでした。鮮やかな紅葉が一層際立つのは、雲間から日光が差し込んできた時。葉の一枚一枚が、これから枯れていくとは思えないほどつややかに光ります。 | |
午後も半ばを過ぎると、濃い霧が山裾をおおい始めました。私たちが山を降りていく うちに、霧の方はもくもくと競りあがってきて、やがて周囲が真っ白になりました。「五メートル先が、もう見えないよ」。 (2000年10月) |
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筆者より:前回は正統派感動路線で攻めた(つもりな)ので、今回はちょっとハメを外して寓話風に。from_calypso@hotmail.com) |